寝袋(シュラフ)の種類は、形(マミー・封筒・キルト)から中綿の素材(化学繊維・ダウン)など様々ありますが、
当店では、キルトのシュラフをメインにお取り扱いしております。そして、そのブランド名は・・・
Enlightened Equipment
(エンライテンド イクイップメント)

2007年、創業者のティム・マーシャルが、自宅の地下室で独りでキルトの縫製を始めた、Enlightened Equipment(以下EE)。製品の需要が高まるにつれ、現在、EEはミネソタ州ウィノナにある50,000平方フィート(約4,645㎡)の建物で、50人以上の従業員がキルト、衣類、アクセサリーなどを製造しています。
ちなみに、日本語ではエンライテンド・イクイップメントと読みますが、「エンライト」と言ったり、略して「EE」なんて呼んでます。当記事では、以後EEと表記いたします。
まず、EEを語るうえで押さえておきたいのが、キルトって何よ?ってことですよね。これからご紹介して参ります。
そもそも、Quilt(キルト)ってなに?
イメージしやすいように、ざっくりいうと掛け布団タイプの寝袋のこと。
一般的な寝袋と大きく違うのは、背中側の生地や中綿が省かれている点です。これでいいの??寒くないの??と思われがちですが、寝袋が暖かいのは、中綿の膨らみ(ロフト)がたっぷり空気を含むから。だから寝ている時、背中でつぶれちゃう部分には、暖かさはあまり期待できません。
家で寝る掛け布団も背中に布団ないですよね。じゃあどうして寒くないの?という疑問に関しては、
背中側の保温は、スリーピングマットで補うんです。家で言う、敷布団ですね。
キルトは、そんなもったいない背中側のダウンを正面やサイドにその分多く封入して効率的に保温してくれます。

例えば、一般的な寝袋400グラムがあったとして、ダウンを分配してみると以下のようになっていました。
・表側 :150グラム
・両サイド:150グラム
・背中側 :100グラム
この場合、背中側に100グラムのダウンがあっても寝ている時潰れてしまうので、保温力を効率的に発揮できないので、もったいないんです。
次に、キルト400グラム があったとして、ダウンを分配してみると以下のようになっていました。
・表側 :200グラム
・両サイド:200グラム
潰れてしまう背中部分の中綿排除し、別の場所に持って行くことで、より効率的に保温ができているんです。
このように、潰れてしまう背中側の中綿を効率的に保温できる、表側に封入することで、同じ400グラムという重量でもより効率的に保温することができます。
このようなメリットがあるので、他社でもキルトを販売していますが、なぜEEのキルトが良いのか。個人的に4つのポイントあるので、順にご説明いたします。
デメリットは?
と、これから、いいポイント4つを紹介していきますが、デメリットももちろんあります。
それは、
というのは、キルトはブランケットの様に寝る以外は、ゴムバンド状のストラップを使って、スリーピングマットにくっつけて使用します。その理由は、キルトは背中が大きく開いている構造なので、きちんとスリーピングマットの上にないと保温効率下がったり、風が侵入してくるからです。
なので、この設置とスリーピングマットへの固定がうまくいかないと、思った以上に寒い。なんてこともありえます。
キルトはマットへの設置の出来がすごく重要なんです。
通常の寝袋は、マットの上に置くだけですよね。背中も開いていないので風も入ってきません。
行く機会は滅多にありませんが、ヒマラヤ級の高山に行く場合、生と死の狭間の中、いちいち設営してられないですし、ミスって保温力不足にならないよう、キルトではなくマミー型の寝袋が使われます。
話が逸れましたが、
これらデメリットは、何回も使用していくうちにほぼ無くなってきます。むしろ、設置の仕方ひとつで好みの寝心地も調整できてきます。緩めにストラップをつけてゆったり寝たり、キツめに着けてあったかくして寝たり。また寝袋を使っていて、寝相が悪く、よくマットから落ちる人にもおすすめで、キルトとマットが固定されているのでマットから落ちて寒い。なんてこともほとんどありません。
こう見てみると、デメリットは慣れる前の数回で、そのあとは、どうやって使おう?と想像力をかきたてられるんです。
Enlightened Equipment の好きなポイント4つ
さきにデメリットを紹介しましたが、デメリットを凌駕するEEのキルトの好きなポイント4つご紹介します。
1:暖かい
前述したように、同じ重量で一般的な寝袋と比較した時に、キルトの場合、同じ重量でも背中部分のダウンを他の場所に充てることで効率よく保温することが出来ます。そのため、同じ重量で比べた時、キルトはより暖かいんです!
また、EEの特徴的な年輪のようなバッフル構造(写真参照:中綿が移動して偏らないようにするための縫い目で区切られた部屋)のおかげで、中綿の移動が減り、より効率的に暖かい空気を留めておけます。

2:軽い
ご説明したように、背中部分の生地を省いているので、同じ温度帯の一般的な寝袋と比べて軽くなります。
さらにRevelation(レベレーション)というモデルは、ジッパーも足の部分の50cmほどしかなく、フードも付いていないので、その分さらに軽くなります。
フードが無い理由はいくつかあり、軽量化の他、サイドスリーパーの人にとってフードがあると寝づらいこと、収納性の向上などがあげられます。
頭が寒ければ、ビーニーをかぶったり、保温着のフードをかぶれば問題ないですね!
さらに、使用しているダウンのクオリティが高いのも特徴。EEは最低でも850FP(フィルパワー)*と950FPのダウンを使用しています。なので、使用するダウンの量も減らせるので軽く、よりコンパクトにすることができます。
ちなみに日本メーカーの寝袋に使われる一般的なダウンのFPは、750FP前後くらいだと思います。

*FP(フィルパワー)とは、
羽毛のふくらみ量のこと。この値が大きいほどグレードが高い羽毛で、たくさんの空気をため込むことができる高品質なダウン(高級)と言えます。つまりこの、フィルパワーが高いほど、少ない重量でたくさん空気をため込むことができる(=暖かい)んです。
寝袋を買うとき勘違いしやすいポイント(FP = 暖かさではない)
快適温度0℃の寝袋があり、一方は700FP、もう一方は800FP。この場合、800FPの方が暖かいわけではなく、軽い寝袋ということ。
800FPのダウンは、700FPに比べ多くの空気をため込むことができるので、少ないダウンで快適温度0℃の保温ができるということです。
なので、購入するときは、予算と軽量性が選ぶ際のポイントです。
3:適応温度帯が広い
個人的にEEのキルトの一番好きなポイントがここ!
高価なダウンの寝袋を買っても、1シーズンしか使えないなんてもったいない!
EEのキルトは、暑い時期はブランケットとして、寒い時期は完全にクローズして寝袋の様に、また足だけ出したいなんて時も、Foodbox(フットボックス)を開ければ解放できます。さらに、このキルトは付属のストラップを使用し、スリーピングマットの上に設置しますが、ストラップの幅を調整し、ゆったり目、タイト目などその時々に合わせてキルトの密着度を調整できます。

EEのキルトは、暖かい時期は、広げてブランケットとしても使えます。朝起きた後羽織って防寒着として身に着けることもできます。

逆に寒いときは、足元のFootBox(フットボックス)を完全に閉じてしまえば冷気を遮断することができます。

また、寝ている最中ちょっと暑いな。なんて時はFootBoxを開放すれば足を出せてぐっすり寝られます。
人間の足裏は汗腺が多く、体温調整を行う役割もあるんだとか。
4:環境性(非撥水ダウンのメリット)
メーカー担当者に話を聞いて、目からうろこで、EEのキルトをさらに好きなりました!以下長文になりますので、
要約しますと、、
・生地には、PFCフリーのDWR(耐久撥水処理)
・通常想定される条件下では、撥水ダウンより非撥水ダウンの方がメリットがある
というお話でした。
近頃、日本でも汚染のニュースを度々見かけるようになりましたが、【永遠の化学物質】と呼ばれる有機フッ素化合物PFAS(ピーファス)を含まない、PFCフリーの耐久撥水処理を生地に施しています。
従来の(というか今もまだ使用されている)撥水加工は、PFASを含んでいます。永遠の化学物質と呼ばれるくらいなので、化学的に安定した物質で熱にも強く、レインジャケットの他、フライパンのコーティング等にも使用されています。使用時というより、製造時に流出の危険が伴うとされていて、使用を禁止する国が増えています。
次に、聞いて正直驚いた、撥水ダウンと非撥水ダウンの比較。のお話
寝袋なんて絶対に濡らしたくないので、生地は防水、ダウンは撥水ダウンがいいに決まってる。と思い込んでいましたが、メーカーのお話を聞いて考えを改めました。

こんにちは!田中商店のマスコット、万平君です。
なぜ、非撥水ダウンを採用しているのか、詳しく教えてください!



よろしくお願いします。
そもそも撥水ダウンが生まれた経緯は、
羽毛布団を洗濯する際の乾燥時間を短縮するためにホテル業界向けに開発されたものだと言われています。
まだ、アウトドア業界の一部でも採用されていて、ウエスタン・マウンテニアリング社やフェザー・フレンズ社では撥水ダウンを使用しています。
現在、多くの寝袋メーカーやキルトメーカーが、寝袋やキルトのような大きなバッフルのある製品に撥水ダウンを使用しないようになりました。



なぜ各社、撥水ダウンを使用しなくなっていったのですか?



その理由は疎水性粒子(撥水剤)でダウンを処理するとロフトが少し減少し、他のDWR(耐久性撥水)加工と同様、時間の経過とともに摩耗してします。
また、この撥水加工はダウンを保護する天然の油分も奪ってしまいます。そのため撥水加工が劣化し始めると、非撥水のナチュラルダウンよりも劣化が進んでしまうのです。そんな理由から使用しないようになりました。



なるほどです。使い続ければ続けるほど、非撥水のダウンの方が良いということですね。
その他、非撥水ダウンのメリットはありますか?



最高品質の羽毛布団を作るため、私たちは常に改良、テスト、そしてお客様の声に耳を傾けています。最近ではこの努力の結果、撥水ダウンから非撥水ダウンに切り替えました。
もちろん、どちらのダウンにも長所と短所がありますが、最終的に撥水ダウンが優れている点はほぼありませんでした。以下その理由です。
一般的な濡れ(結露、湿ったフットボックス、濡れたシミなど)に関しては、撥水加工と非撥水のダウンは同じような性能を発揮することがわかりました。
そして多くのテストと実験の結果、非撥水のダウンはロフト、耐久性、快適性が向上しており、非撥水ダウンはお客様にとってよりプレミアムな製品であると感じています。
撥水ダウンは上質なダウンですが、その有益な要素に遭遇する機会は少なく、大げさに表現される可能性もあり、前述の非撥水ダウンの利点の影に隠れてしまうこともあると私たちは感じています。
ここで最も経験豊富なハイカーのひとりは、30年近くアメリカ全土でダウン製品を使用してきました。彼はアメリカで最も湿度が高く、ジメジメした地域に住み、バックパッキングをしてきましたが、ダウンの使用に問題があったことは一度もないそうです。この結果から湿気はダウンにほとんど影響を与えないことがわかりました。



湿気は、影響ないんですね!
実際テストされてみた結果はどうでしたか?



湿度100%の密閉された部屋に撥水ダウンと非撥水ダウンの2枚を3日以上置いたところ、どちらの羽毛布団もほぼ同じ量の湿気を吸収しました。
このことから、湿度の高い状況下では、撥水ダウンは非撥水ダウンに対して実質的なメリットがないことが確証されました。
どちらのダウンも湿度の高い部屋に入る前に重さを量り、ロフト高を測定しました。どちらのダウンも約1.5オンスの湿気を吸収し、ロフト高は湿度測定前と変わらなかったです。
むしろ、非撥水ダウンは加湿後にロフトが高くなりました。つまり、現実のすべてのシナリオにおいて、非撥水ダウンは撥水ダウンと同等、いやそれ以上の性能を発揮したのです。
ただ唯一、撥水ダウンのほうが優れていたシナリオは、水中にダウンを沈めてどれくらい吸水するかのテストでした。このシナリオでは、撥水ダウンの方が非撥水ダウンよりも吸水量が少なかったですが、シェル素材のDWR(耐久性撥水)加工もダウンの中に水が浸入するのを防ぐのに大きな役割を果たしていることがわかりました。
この結果から、シェルターに穴が開き、寝袋に雨がずっと降り注ぐような状況でなければ、問題にはならないということです。



通常、テントやタープ下で寝て、雨が直接当たらないようなシチュエーションだったら、撥水ダウンのメリットはほぼ無いんですね。



そういうことですね。
また、撥水ダウンは劣化します。
何度も洗濯を重ねるうちに、非撥水ダウンには見られないような固まりが撥水ダウンにはできることがあります。これはすべてのケースで起こるわけではありませんが、撥水処理によってこのようなことが起こる可能性があります。
もうひとつ注意しなければならないのは、すべての撥水処理は最終的には無くなるということです。つまり、一度撥水処理済みのダウンでこの現象が起こり始めると、どのような問題にもなり得るということです。だから長期的に見れば、非撥水ダウンのほうが有利なのです。



天然素材は、そのままで素晴らしい機能を備えているんですね。
でしたら、すべてのダウンを非撥水ダウンにするべきですよね!



ただ、衣類に関しては、撥水ダウンはとっても理にかなっています。
衣類は、寝袋やキルトよりも雨、雪などにあたる可能性が高いため、衣類(ジャケットなど)の小さなバッフル付きのダウン製品には、撥水ダウンは理にかなっていると言えます。
繰り返しになりますが、キルトやスリーピングバッグのような大きなバッフルのあるアイテムでは、長期的には非撥水ダウンが最も理にかなっていると思われます。
まとめ
いままでは、呼気による湿気や、結露、高湿度などによってダウンのロフトが下がり保温力が下がるから、ダウンは撥水のほうが良いと思っていましたし、どこの雑誌・サイトもそう書いてあり、そう教わりました。
ですが、EEのテスト結果を見るとナチュラルなダウンの方がメリットが大きいと分かります。あえて何もしなことが一番いい。というシンプルさを突き止めるEEならではの結果と、同じものを最高の状態で長く使い続けられること、撥水処理に関わる環境負荷など、様々な視点から考えてみてもEEのキルトはやっぱりいいな。と思い知らされました。
ぜひ、みなさんもEEのキルト使ってみてください!」良さがわかるかと思います。


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